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振袖の文様について

2019.07.14

振袖には様々な柄がありますが、皆さんは自分が成人式で着た振袖、もしくはこれから着る予定の振袖がどんな柄だったか覚えていますか?
きっと色や全体的な雰囲気などは覚えていても、細部の柄や文様がぱっと思い浮かぶ方は少ないのではないでしょうか。
実はそれらの柄や文様には一つひとつ名前と意味がちゃんとあります。
そこで、今回は振袖に描かれた柄や文様について、どんな種類・意味があるのか代表的なものを紹介していきたいと思います。

植物文様①

日本の文様は、植物文様、動物文様、自然文様、器物文様、割付文様に大きく分けることができます。
その中でも植物文様はほぼすべての振袖に表されており、季節のはっきりしている日本では古くから四季折々に咲く花や草木が図案化され、文様として取り入れられてきました。

まずは植物文様からみていきたいと思いますが、予想以上に数が多かったため①、②に分けてご紹介します。


・菊文
美しく香りも優れている菊は長寿を象徴する代表的な花であり、無病息災、邪気払い、心身の安定、高貴、高尚など様々な意味があります。
丸い花が太陽を思わせることから、花柄の中で最も位の高い花として用いられています。また、花びらの開花具合により夏菊、秋菊、寒菊と呼び名が変わります。

・桜文
桜の「さ」は稲、「くら」は神が宿る座を意味し、豊作を願って花見の宴を催したことから、五穀豊穣という意味が込められています。
桜は日本を代表する花であり、季節の始まりに咲くことから、新しい門出を意味するともいわれています。

・牡丹文
牡丹は百花の王とされ、奈良時代に中国から日本へ伝わってきました。大輪の豪華な花を咲かせることから、幸福、高貴、富貴という意味を持つそうです。

・松竹梅
松、竹、梅の組み合わせは、現代において吉祥文様の代表といえます。長寿の象徴とされ極寒でも緑を絶やさない「松」、寒さに負けず一年を通して緑色を保ち青々と真っ直ぐ伸びる「竹」、厳寒の中でいち早く香り高い花を咲かせる「梅」は、中国では歳寒三友として古来より尊ばれており、逆境にあっても節操を守る例えとされています。
三つとも縁起の良いおめでたい文様として日本でも古くから親しまれており、図案化されたものが単独で用いられる他、様々なモチーフと組み合わせて広く使われています。

植物文様②

・橘文
長寿や子孫繁栄の象徴とされ、単なる植物文様ではなく強い吉祥性を持つ文様といえます。
吉祥文様の多くは中国から伝わってきたものですが、橘は日本で生まれた数少ない文様の一つといわれており、文様化されたのは平安時代からです。

・椿文
古くは悪霊を払う力があるとして神事に欠かせない聖なる木とされており、庶民の間では春の到来を告げる木として親しまれてきました。
しかし、武家の間では花が首からぽとりと落ちることから不吉とされ、文様として盛んに用いられるようになったのは明治以降になります。

・楓(紅葉)
青々とした楓の葉が、黄色や赤、茶色などに色づいたものが紅葉であり、色の変化する様子が非常に美しく人々を喜ばせることから、世渡りがうまく幸せになれるという意味があります。

・薔薇
薔薇は女性の美しさや華やかさを表すものであり、西洋では美と愛の象徴とされてきました。
日本で文様として用いられるようになったのは大正以降で、赤い薔薇は愛と情熱を表し、ピンク色はしとやかさ、白色は純潔、黄色は友情というように、色によって意味合いが異なるそうです。


植物文様は動物文様や自然文様などに比べると非常に数が多いのが特徴です。
とても全部は載せきれなかったので、ここではよくみられる文様にしぼってご紹介しました。

動物文様

・鶴
鶴は中国では千年生きるとされ、日本でも平安時代から延命長寿の瑞鳥として尊ばれてきました。
立ち姿だけでなく飛び交う姿も美しく優雅で気品があり、喜びや品位、長寿と象徴する吉祥文様として上流階級から一般庶民まで広く使われました。

・蝶
中国においては長寿の象徴とされており、日本には奈良時代に伝えられました。
青虫から成虫に姿を変える蝶を天に昇る生き物としてとらえ、ひらひらと舞う優美な姿もあいまっておめでたい文様として用いられています。


植物文様に比べてぐっと数が少なくなり、動物文様は鶴や蝶以外の文様はほとんどみられませんでした。
鶴は吉祥文様を集めたような古典的な振袖に多くみられ、蝶は華やかに意匠化されたものが現代的でモダンな振袖にも広く使われている印象でした。

自然文様

・波文
寄せては返す波の様々に変化する形を文様化したもので、永遠の象徴または海からの恵みを呼ぶものとして古くから使われてきました。

・霞文
霞のたなびいている様子を表したもので、帯状に描くことによって空間を区切り、遠近感などを表現することができます。また、カタカナの「エ」のように横長でふくらみを持ったものをヱ霞と呼びます。
その他、霞の形に切り取ったものを霞取りといい、その中に季節の草花の文様を入れて華やかさを出したものもあります。

器物文様

日常生活で使う道具類などを文様化したものを器物文様といいます。
振袖に描かれているのは平安時代に貴族が使用していた道具類が多く、多種多様にアレンジされ文様化されています。


・扇文
扇面文や末広文とも呼ばれ、広げると末広がりになることから、発展や繁栄、開運の吉兆という意味があります。
特に、振袖によくみられるのは檜の薄い板の上部を絹糸で綴じた檜扇で、左右に長い組み紐が付いた雅なものが多いです。扇の中には様々な文様が描かれることが多く、とても華やかな印象になります。

・鼓
鼓は楽器文様の中では最もよくみられるものであり、大きく美しい音が鳴り響くことから「実が成る」または「物事が良く成る」などにかけて、成功を表す意味があります。

・几帳
几帳は平安時代における室内の調度品で、衝立式に二本の柱を立てその上に木を渡し、布の帳を垂らしたものです。
布の部分には様々な吉祥文様が描かれ、王朝を連想させる雅な柄として用いられています。

割付文様

一個の文様を規則的に繰り返した文様で、縦横に割ることのできるものを割付文様といいます。
線を引き、割り付けていった文様という意味で、幾何構成文と呼ばれることもあります。わかりやすく端正な図柄が特徴です。


・七宝文
七宝は同じ大きさの円を4分の1ずつ重ねて繋いだ文様で、七宝繋ぎともいいます。七宝の円形は円満、調和、子孫繁栄を表しており、吉祥文様として宝尽くしの一つにも数えられています。
円の中心に四弁花を入れたり、重なり合った円の部分に模様を施したりと様々な意匠がみられるのが特徴です。

・青海波
水面に見える波頭を幾何学文様的にとらえて文様化した青海波は、古くから用いられてきた文様の一つであり、大海原の波のように穏やかな暮らしを願うという意味があります。また、雅楽の「青海波」の装束に使われていたことからこの名が付いたとされています。
日本だけでなくエジプトやペルシャをはじめ、世界各地にみられる文様です。

・亀甲文
亀甲繋ぎとも呼ばれる亀甲文は、もともと西アジアで誕生し中国や朝鮮から日本に伝えられたとされています。
正六角形を上下左右に繋いだ幾何学文様で、東洋では六角形が亀の甲羅に似ていることからこの名で呼ばれています。長寿の象徴であり、伝統的な吉祥文様として平安時代から使われています。


割付文様は単独で用いられるだけでなく、文様の中に部分的に使われることも多いです。
季節の草花や動物、波や雲といった自然文様などと効果的に組み合わせることで、両方の文様の持ち味を生かすことができ、よりいっそう華やかになり深みも出てきます。

まとめ

いかがでしたか?
今回のテーマはきものラボのメンバーも初めて知ることが多く、とても良い勉強になりました。


このように振袖の文様は多種多様存在し、それぞれ長寿や子孫繁栄などといった縁起の良い意味を持ち、おめでたい文様として扱われています。
成人式は子どもから大人へと成長していく中で大きな節目となる一日であり、その晴れの日に身にまとう振袖には様々な願いが込められているんですね。


振袖に描かれた文様の種類については、花柄が非常に多いということがわかりました。
当店には成人式用の振袖が約200枚ありますが、どの振袖にも必ず一種類以上の花が描かれており、その中でも菊や牡丹、桜、梅などの文様が特に多い印象でした。
着物の文様にはもともと植物文様が多いのですが、やはり二十歳前後の若者が着る振袖は初々しさや華やかさを表すために花の文様が多いのかもしれませんね。


また、意外にも最近の振袖は日本古来の吉祥文様がふんだんに取り入れられていることがわかり、とても興味深い内容となりました。
伝統的な文様が現代においても脈々と受け継がれていることにとてもうれしく感じ、後世に伝えていきたい日本の文化の一つだと思いました。


今回はほんの一部の代表的なものしかご紹介できませんでしたが、振袖の文様はこの他にもまだまだたくさんあるので今後も取り上げたいと考えています。


【参考文献】
『きものの文様』 藤井 健三監修,世界文化社 ,2009年